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とろりきんいろ
やわらかな光が、教室の中に入り込んでくる。射し込んでくる、というより入り込んでくるという言い方がしっくりくる、とろりとした光。
窓の外を見ると、夕焼け空のところどころに昼間の青が取り残されていて、不思議な色を作っている。
もう少し時間が経てば、日が沈んでマジックアワーが訪れる。日没後数十分だけ太陽が姿を消して、ほとんど影がない状態になるのをそう呼ぶらしい。写真なんかを撮る人間には、特別な時間なのだという。
だけど、写真を撮らない俺にとっては、今の、太陽が沈んでいく時間のほうが好きだ。
とろりとした金色は、それに包まれるものを魅力的に見せる力がある。
「ごめんね。もうちょっとで書き終わるから」
「あ、いや。大丈夫」
俺の視線に気づいて、古谷さんが日誌を書く手を止めて顔を上げた。その真っ直ぐな眼差しに戸惑って、俺は変なことを口走る。何が、どう大丈夫なんだろう。
慌てた俺の心中など知らぬ古谷さんは、すぐに手元に視線を戻し、サラサラと日誌の上にシャーペンを走らせていく。
ミニーマウスを思わせる赤白ドットが可愛い、華奢なシャーペン。飾り気があまりない古谷さんの持ち物としては、ちょっと意外な感じがした。だけど、そのギャップがまたいい。
日直なんて本当は面倒臭くてたまらないけれど、組む相手が古谷さんだったのはラッキーだなと思う。
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