第3章 牢屋

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 全身が硬直し、牢屋内の金属音がなり止む。 「組織の存在がバレた時点で貴女に逃げ道は残されていません。それにーー」  牢屋の中へ入ったカラシナがゆらりと近づきながら、黒の手袋を嵌めた右手を左腰へ動かした。  そこから取り出されたのは、1本の短剣。 「昔貴女が俺にしたこと、忘れてませんよね?ーーお母様」  カラシナは自身よりやや背が高い彼女の顎に左手を添えた。同時に、女の身体がビクッと揺れる。 「おっと、安心して下さい。俺は貴女を殺したりなんてしません。人が死ぬのも人を殺すのも嫌いですから」 「・・・・・・だったら、なんでこんな組織にいるの?」  女が掠れた声でカラシナに尋ねる。  カラシナは右手の短剣を上に放り投げ、 「・・・・・・貴女方から逃げたあの頃は、誰でもいいから殺したかったんですよ。でも今はどうでも良くなった。それだけです」  落ちてきた短剣を逆手に掴み、女の右肩に刺した。 「っ、ああああああ!!!」 「少し静かにして下さい。大丈夫、死にませんから。ね?黙れつってんだろ」  抑揚のない声には、やはり感情が見えない。  恨んでいるというより、本当に今はどうでもいいと思っているのではと疑いたくなるほど、その口調は淡々としていた。 「──このっ、恩知らずの、クソガキが・・・・・・っ!!」 「なんとでも言って下さい。これが俺の今の仕事だし、任務として続けるだけなので」 「・・・・・・地獄へ堕ちろ、この、悪魔!!」 「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。それと、俺は悪魔じゃなくて『死神』・・・・・・らしいですよ?今は殺してないけどね」  無表情なりにも一応恨みを晴らしているつもりなのか、あるいは本当に何も考えていないのか。   短剣を肩に刺したまま女を殴りながら、カラシナは淡々と話し続ける。  女の長い夜は、まだ序章に過ぎなかった。
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