69人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
女への暴力が中断した時は、既に日付けが変わっていた。
「ーーおい、カラシナ。その辺にしとけ。さすがに死ぬぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
「もう声すら上げない奴を虐めてどうする?もう気絶してるみたいだし、多分もう何しても反応しないぞ?」
「気絶はしてねーよ」
黙り込んだままひたすら殴り続けていたカラシナが、いつの間にか近くに来ていたライデントの言葉に口を開いた。同時にその手も止まる。
心なしか殴られ続けていた女の体には、痣だけでなく切り傷も増えていた。
「そーですか。でもさ、カラシナだって疲れただろ?息も上がってるし」
「うるせー。平気だっての」
カラシナはそう答えるが、微かに肩で息をしているのが分かる。
「でもお前、魔法を使えない分物理的なダメージを与えるしかないだろ。体力の消耗は激しいはずだ」
「ライデント・・・・・・」
ライデントの諭すようなセリフに、カラシナも押し黙った。
突然だが、ここで魔法について軽く触れておく。
この世界に存在する魔法は、大きく分けて2種類。炎や水、風などを操る『通常魔法』と、通常魔法に属さない『特殊魔法』だ。
『特殊魔法』は更に2つに分けられる。1つは回復魔法。『白魔法』とも呼ぶ。
そして2つ目が『黒魔法』。通常魔法にも白魔法にも属さない魔法だ。
ちなみに、ドアを壁に見せていた魔法やそれを解いたライデントの魔法も『黒魔法』に分類される。
「・・・・・・そうだな。今日はやめておく。魔法を使えない俺に出来ることは限られているからな」
どこか自嘲気味に答えるカラシナに、ライデントはそのキリッとした目を伏せた。
「悪い。言い過ぎた」
「別に良いから。本当の事だし謝んな」
それでも申し訳なさそうに顔を逸らし続けるライデントに、カラシナは一瞬迷った後、黙ってライデントの肩に手を乗せた。
個人差こそあれども世界の9割が少しでも魔法を使えるのだが、カラシナは残りの1割。
つまり、世界でも珍しい“魔法を一切発動できない人間”だ。
もっと言うなら、カラシナがいるこの組織内では、魔法を使えない奴などカラシナ以外には誰一人いない。
それでもカラシナは組織内でも強い方で、組織の人間たちから慕われているほどだ。
その理由については、またの機会に。
最初のコメントを投稿しよう!