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それは、ここ2日間のカラシナからは想像もつかないほど丁寧で紳士的だった。
「え、ええ。こちらこそ宜しくお願いします」
そんなカラシナの様子に戸惑いつつも、食事を持つ彼女も頭を軽く下げた。数歩後ろに立っている短いライトブラウンの髪の女性も、合わせて頭を下げる。
「俺・・・・・・“私”はまだまだ未熟者である上、この屋敷で雇って頂き初めてからまだ日も浅い故、今後ともよろしくお願いします」
ここでカラシナは口の端を吊り上げ、微笑を顔に貼り付けた。
あくまで営業用とはいえ、もともと端正な顔立ちである彼が微笑を浮かべたのだ。それが2人にはかなり効いたらしく、
「ーー!!こっ、こちらこそ、宜しくお願いしますっ!!」
「も、もし何か分からないことがおありでしたら、私たちに是非いつでもお尋ね下さい!!」
2人は共に頬を赤く染めながら、ダークブラウンの髪の女性がカラシナに食事を渡すや否や、プルメリアの部屋から足早に去っていった。
「・・・・・・何?今の」
食事を抱えた手とは逆の手で扉を閉めていたカラシナへ、木製の椅子に座り続けていたプルメリアが声をかけた。
その声のトーンはどこか低くなっているようにも聞こえる。
「何か問題でもありましたか?プルメリア様が怒るようなことしましたっけ?」
「別に。強いて言うなら2つほど驚いたことがあってね」
「驚いたこと、ですか」
プルメリアが本を手に持ちながらクローゼットの方へ歩きながら、彼女は続ける。
「ええ。まず、貴方があんなに丁寧な言葉を使えるとは思わなかったわ。仮にも王族である私に対しては雑な敬語が、貴方とほとんど変わらない立場の侍女たちにはまともに扱われていたんだもの」
彼女は、壁の一面を覆うクローゼットのうちいちばん左を開いた。
そこは、数百、下手したら4桁を越えるであろう数の本で埋め尽くされていた。
そのうち、プルメリアは中央やや下あたりへ本をしまう。
「・・・・・・2つ目は?」
その間に食事をテーブルへと置いていたカラシナが、続きを促す。
「2つ目は、貴方にもあんな表情が出来たことよ」
「え、見てたんですか?俺、プルメリア様には背中向けてましたよね?」
「そこはどうでもいいの」
どうでもいい、というよりは『詮索するな』とでも言いたげな口調だったため、カラシナもそこは深く追求しないことにした。
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