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「そーですか。では、『あんな表情』とはどういった意味で?」
「そのままの意味よ。カラシナが表情を変えるところ、初めて見たものだから」
「そりゃまあ、2日間という浅い付き合いですからね。俺にだって営業スマイルくらいなら出来ますよ。昔教えてくれた人がいたので」
付け加えたカラシナの目は、どこか遠くを見ているようだった。濁っていてよく分からないため、気のせいかもしれないが。
「ふーん?まあ、スマイルというには氷のように冷たい微笑だったけれどね」
先程のカラシナの顔を思い出したのか、プルメリアが苦笑した。
「何故か、2人の侍女は寧ろ悦んでたみたいだったけれど」
「どういう意味ですか?ま、いくら営業とはいえ、無意味な笑顔を無理やり浮かべるなんて労力の無駄ですからね」
「それでも笑顔は大事よ。良い印象を与えられるし好感度も上がるわ。カラシナは男だから関係ないかもしれないけれど、女は笑顔が最大の武器だと言うくらいだものね」
プルメリアは椅子に座ると、カラシナの方を見て微笑んだ。
対するカラシナは、やはり無表情のまま口を開く。
「そうですね。それ、以前にも言われたことがあります。勿論プルメリア様ではない別の女性ですが」
「ふーん?ちなみに、それは貴方に笑顔の作り方を教えた人と同じなの?」
どこか面白そうに尋ねながら、プルメリアは白パンを1口サイズにちぎって口へ運んだ。
プルメリアの昼食は、白パンにグラス1杯の赤ワインのみという王族にしては少ない量だ。
とはいえ、グラスや白パンの原料である小麦は希少価値が高いため、平民に手が届く食事とも言えないが。
「同じですが、それがどうかしましたか?」
「そうなのね。いえ、なんでもないわ」
「なにニヤニヤしてんですか。ーー話変えますけど、プルメリア様はそれで昼食足りるんですか?」
プルメリアは、面白くないとでも言いたげに軽くため息をついた。
「足りるわよ。たくさん出ても食べきれないし、残した分は残飯として廃棄されるなんて勿体ないでしょう?だから、わざと少なめで頼んでいるの」
「そうだったんですか。プルメリア様って本当に王族ですか?そのような考えをお持ちの貴族や王族は聞いたことがないのですが」
「失礼ね。これでも一応グロリオサ王国の第3王女です。あ、貴方もパン食べる?」
プルメリアが2つ目の白パンをちぎり、カラシナの方へ差し出した。
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