第4章 引きこもりの日常

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 が、カラシナはそれを拒んだ。 「いえ、結構です。王女の食事を頂くなんて恐れ多いです」 「何を今更。私に対して少しも敬意を表してないようにしか見えない貴方のことだもの。本当は恐れ多いなんて微塵も思ってないでしょう?」  プルメリアは引き下がらず、パンをカラシナへ近付ける。  白パンの原料である小麦の香りがカラシナの鼻腔をくすぐった。 「それでも、プルメリア様の分が無くなってしまいますし、俺がもらっていい身分ではないので」  キッパリと言ったカラシナの言葉に、どこか残念そうな眼をしながらパンを銀食器へと戻した。が、プルメリアはその皿ごとカラシナへ差し出す。 「私も無理強いをするつもりは無いわ。ただ、これからお世話になるわけだし、お近づきの印ではないけど改めてよろしくと伝えたかったの。それだけよ」  口ではそういうものの、やはり落ち込んだ様子のプルメリアを見て、カラシナは観念したかのように1口分のパンを口へ入れた。  数回口の中で噛み、直後カラシナが硬直した。 「・・・・・・だから食べたく無かったんですよ」  カラシナが零した言葉に、プルメリアが不安げな瞳でカラシナをじっと見る。 「カラシナ?もしかして、美味しくなかった?」 「ライ麦パンとは違う、サクサクとモチモチが絶妙なバランスを放つ食感、口いっぱいに広がる小麦の風味。ここまで美味しいパンは初めて食べました。正直病みつきになりそうです」  予想とは良い意味で反したカラシナの感想に、プルメリアは表情を一瞬で満面の笑みに変えた。 「そうでしょう、そうでしょう!!美味しいのよ!!もし良かったら、これからも一緒に食べない?カラシナの分も用意させるから!!」  喜ぶプルメリアの姿は、まるで初めて友だちが出来た少女のよう。 「そうですね。プルメリア様が良ければ、是非そうさせて頂きたいものです」  そんなプルメリアの様子を見るカラシナはやはり無表情だが、どこか穏やかにも見えた。  こうして、プルメリアの変わり映えしない日常に、新たな楽しみが加わったのだった。
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