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第5章 2人の王女
空が紫色に移り変わり、月の独壇場と化し始めた頃。
「報告します、チーフ」
男へ跪く蒼髪の青年は、中性的な声音で抑揚なく伝える。
彼の先で座り心地の良さそうな椅子に座る男は、目尻に皺が目立つ瞳をやや見開いた。
ーー数刻前。
「では俺は食器を片付けて参りますので、少々お待ちください」
綺麗に空っぽとなった“2人分”の銀食器とワイングラスを持ち、カラシナは扉へ向かう。
「ありがとう。出来るだけ早く戻ってきてね。でないと死ぬわよ」
「分かりましたから死なないでください」
2人の間で既にテンプレとなった会話を交わし、カラシナは部屋を出ていった。
「・・・・・・さて、どうしたものか」
扉を完全に閉じ切り、カラシナは1人ポツリと呟く。それが合図であったかのように、カラシナは王室専属料理人がいる厨房へ向かって歩き始めた。
「潜入捜査を初めてから早1週間が過ぎたにも関わらず、俺は未だに王女陛下、並びに残り2人の王女と接触してない。待って、それって逆にすごくね?」
とはいえ、本来なら専属執事ともなると国王ら王族との顔合わせは必須。更に言うなら、勤める初日に挨拶をしなければならない。
それが、代々王家に伝わる習わしのようなものであり、礼儀作法でもある。
「初日に国王と話したきり、誰とも言葉を交わすどころか姿を見た事すらないんだよな。さすがに顔合わせとかないと、何よりライデントに殺される」
感情を感じさせない口調で、長いため息と共に吐き出しながら、カラシナは銀食器を調理室のもとへ返す。
調理場にいた調理師たちが、珍しい生き物を見るような目でカラシナへチラリと目を向ける。が、彼らはすぐに自身の仕事へ戻ってしまった。
「王女らと揉めることなく会うにはどうすべきか。会ったとこで話すことなんて無いけど」
今回の潜入捜査はカラシナにとって、あくまでも『第3王女の監視』。目的も理由も未だ知らぬまま。
今まで組織に命令されるがまま仕事をこなしてきたカラシナでも、今回の仕事に関しては不審に思っていた。
「組織は何を考えているんだか。まあ、知る必要が無いか知ってはならない情報があるかの2択だろうけど」
プルメリアの部屋へ向かいながらカラシナは顎に右手を添えてブツブツと思案に耽っている。
途中ですれ違う侍女たちがギョッとしてカラシナを見るも彼はどこ吹く風。
「それでも、何故あんな引きこもりの王女をわざわざ監視しなければならないんだ?あの王女に何か秘密でもあるまいし・・・・・・、・・・・・・ん?」
最奥にプルメリアの部屋がある、真っ直ぐ続く廊下。その丁度プルメリアの部屋にあたる部屋付近に見慣れない女性が2人、カラシナへ背を向けて立っている。
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