01_結婚

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 帝の前に座らされて、なんなりと欲しいものを申せ、なんて言われたって急には思いつくもんじゃない。冒険者の最高ランク、A級ハンターへの昇格試験をクリアした俺は、自動的にリージェルク帝国軍の参与を拝命することになった。勝手についてくる肩書きとばかり思っていたが、まさかいきなり当代の帝、ティフロ6世の前に引きずり出されるとは。咄嗟に目についたカーテンを指さしてしまったわけだが、あながち悪い選択でもなかったのかもしれない。就任祝いにどえらいモノを選びやがった、と苦笑したのは、俺の師匠であり軍の相談役でもあるA級ハンターのクレシュだった。  19歳、歴代最年少ということもあって、A級ハンターライセンスを付与すべきか否かはかなり揉めたらしい。一度認められれば、参与として死ぬまで給料も発生する。帝都コアリアまで取りに行く必要があるが、定期的に金を受け取れる権利があるなら、今まで通り好き勝手にやっても女房くらいは食わせていける、それが、プライムとの結婚を決めた理由だった。帝国歴618年、4月1日に開催された昇格試験を終えた俺は、翌日には帝都を出て島に向かっていた。  俺としては給料なんかなくても腕っぷしひとつで稼ぐ自信はあるが、ふらりと出かけていつ帰るかもわからない冒険稼業にプライムを付き合わせるのは気が引ける。何より俺の両親が、子どもの俺を島に置いたまま揃って遠征に明け暮れた挙句、魔物にやられてついに帰ってこなくなった。待つ身のキツさは、俺自身がよく知っている。プライムはいつも俺について来たがるが、足手まといになるし、何より彼女を危険に晒すわけにもいかない。家に待たせるならせめて、金くらいは安心して使って欲しかった。     
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