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課長は突如私の前にしゃがみ込むと、まるであやすように声を出して私の方へ指先を向けてきたのだ。
どういうこと……?
課長の左腕には、今コンビニで買ってきたのであろうポリ袋が提げられている。
「ほら、こっちにおいで」
少し強い口調で言われて、ついいつものクセで逆らうことができずに、一歩前に出てしまった。
すると、課長は黒猫である私の頭を撫でてきたのだ。
「あら、お利口さんね」
課長は、いまだかつて聞いたことのないような優しい声色で黒猫の私を手招きする。
「警戒しなくてもいいのよ。お腹空かせてるのでしょう? おいで」
ついて行くか行かないか。できればついて行きたくないと思っていた。今は黒猫の姿なわけだし、よくよく考えれば課長の言うことを聞かなくても、問題ないのだろう。
けれど、課長がコンビニの袋からチラリと見せるのは、ふかふかと美味しそうなミルクパン。
さすがに空腹には抗うことができずに、私は課長に続いて近くの路地に入った。
「どうぞ」
課長はミルクパンを大きめにひとかけらちぎると、私の前に置く。
いいのかな……?
見上げると、課長は少し疲れたような笑みを見せる。
「こんなところで食べるなんてお行儀が悪いって? 大丈夫、お互い様だから」
こんな課長の顔は初めて見る。
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