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追憶
………死にたいと思った。
そんな事が度々ある。………自死も考えた。でも、死ぬ事は叶わなかった。死ななければならない理由が無いからである。
決して理由が無いとは言い切れないのだけれど、でも、言ってしまったところで、誰にも理解しては貰えないのではないかしら?
………全く、こんなボクをこんな世界のこんな時代に転生させた神様にすら愚痴を溢したくもなる季節でありまして。
最初に死んでしまいたいと感じたのは、大学受験で失敗続きの頃だったかな?僕は、将来は映画俳優を目指したかったのだけれど、頑なに両親に反対されてしまってね。
「夢みたいな事を言うんじゃありません!」
「………俳優なんて言うモノはな、昔は河原乞食と呼ばれていたんだぞ?………まともな人間がする様な事じゃない。そんな理由で上京する事は許さんからな!」
当時、僕の実家は老舗の銭湯稼業を営んでいてね、僕には二人の兄がいたのだけれど、一番上の兄は生まれてから一年も経たない内に水頭症が原因で病死。二歳違いの兄も、僕が中学校に入学した年に交通事故で死亡。
残された僕が稼業を継がなきゃならなかったのだけれど、僕には興味が全く無かったんだよね。
………それに第一、ありきたりの銭湯なんかでこの激動の時代を乗り越えて行けるのかしら?人間なんて誰しもが他人の懐事情なんてお構い無し。己の自己満足にしか金銭を使いたがらない。
………そうでしょ?
これからの時代、スーパー銭湯や健康ランドが建ち並ぶ中、ありきたりの銭湯を経営するだなんて、僕には荷が克ちすぎる。それに、僕の人生は僕のモノだ。大人の都合で将来を奪われたくはないけれど、ここは一先ず役者になりきろう。
結局、稼業を継ぐ為に経営学を学ぶと言う名目で大学進学を条件に何とか上京する事は許して貰う事が出来たんだよね。でも、学校の勉強なんかうっちゃらかして、高校の演劇部でひたすらに演技の勉強ばかりしてたっけ?
元々大学なんか通うつもりも無かったものだから、東京にある大学の試験を受けまくったのだけれど、何せ今の時代になってもこの国の文化の中心地は東京だから、大学に通うふりをして、誰にも内緒で演劇活動をすれば構わないと考えたものの、どうして都会の大学はこんなにも偏差値が高いのかしらねぇ?
その頃の僕の成績は偏差値が29。受かる訳無いじゃん?最初の受験でカンニングまでして結局アウト。
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