追憶

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そんな引きこもりの僕が俳優の仕事をしたいだなんて、誰だっておこがましいとさえ思うよね? だからこそ、僕は俳優と言う存在に憧れに似た感情を抱き続けていたのかも知れない。 だって、人前で演技をしている役者と言うモノは、その時間と空間の中では自分の現実から逃れられると思ったものだから。 それはさておき、でも、これから先どうすれば良いのかな?………何が正しい答えなのだろう。 田舎には戻りたくはないし、上京する口実を考えても怪しげな雰囲気みたいで、その頃の僕には、今と言う時間を生きていると言うより、むしろ、生き残っていると言うか、死に損なっていると言うか、存在していると言う事をその様な価値観でしか感じられなくなってしまっていた。 そんな中、僕は高円寺の町の外れを独りでトボトボと歩き続けていた。 ふと目の前に見える自動販売機でラーク・マイルドを一箱買ってみた。別に僕は喫煙と言う習慣は全く無かったのだけれども、今だけ煙にまみれてみたかったと言うか、何時もと違う行動をとる事で自分の中で何かが変わると思ったんだ。 ………運命との出会いはその時の事だった。 何気無く自動販売機の傍らを見つめながら目に止まったモノは一枚のポスター。 そこには……… 『 大松事務所主催 』 『 歌舞伎町ファンタジスタ出演者 』 『 オーディション 』 ………と標されているのだった。 つまり、僕は大学に通う為に上京する訳じゃ無く、それはつまり口実であって、俳優の道を歩む事が目的なのだから、その時の僕の瞳には、その一枚のポスターにチラホラと光背が見え隠れしているかの様に映っていた。 ポスターの片隅には主催者の連絡先が記されてあった。僕は早速、懐のスマートフォンに手を伸ばそうとした。 「御電話有り難うございます。こちら大松事務所で御座いますが、どの様な御用件でしょうか?」
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