光明往くが如し

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光明往くが如し

「何事も最期まで諦めず、己の運命の道を歩み続けてみよう。己の死に様は、生まれて来た時から既に定められている、誰もが逃れられない運命の女神に背負わされた十字架に過ぎないモノなのだから………。」 僕は己にそう言い聞かせながら、もと来た道を辿り、高円寺の駅へと向かって歩き続けていた。 ふと気が付くと、僕から少し離れた目の前を1人のサラリーマンらしき男が歩いていた。唐突に、男は腕時計を気にしながら、足早になった。 ひょっとして、何処かのビジネスマンかしら? 外回りからの帰りなのか。それとも、保険会社のクライアントの下へと急いでいる途中なのか。 そんな中、男の傍らから、杖を携えた初老の男が声を掛けて来た。 「すみません。つかぬ事をお聞きしますが、この辺りに郵便局はありませんでしたか?」 男は遮るかの様に答えた。 「すみません。急いでますので。」 そして、男は何事も無かったかの様に、その初老の男には目もくれずに過ぎ去って行った。 その時、僕はその男の言動に対して、嫌悪感に似た感情を抱いたのかも知れない。 僕の生まれ故郷の町並みでは見慣れない光景だったからだ。 確かに、自分と言うモノがある限り、自分の事も考えなければならないのかも知れないけれど、相手の立場になって考えられなければ人間失格なのではないかしら? 明らかにアイデンティティの崩壊を人間社会に対して感じてしまっていたその時の僕。 ………人の動きは金の動き。 人間は金の為に生きていると言う噂を聞いた事があるけれど、他人同士の繋がりは所詮利害関係の他の何物でもないのかも知れないけれど、利益の追求ばかりが種としての人間の本来の目的では無いのでは無いかしら? 気が付くと、僕は思わず、目の前で佇んでいる初老の男に話し掛けてしまっていた。 その初老の男は、自らを「大松利雄」と名乗っていた。近頃、知人の家庭に孫が生まれたらしく、高円寺の町を訪れた最中、贈呈品の内容を思い付き、郵送する為に最寄りの郵便局を探しているらしい。 僕は、高円寺の駅に向かう途中に郵便局の前を通り過ぎた記憶を思い出し、大松に話した。 「………郵便局なら、直ぐそこの横断歩道を渡ってから左側に曲がって、暫く歩くと右側にありましたけど?」 すると、大松は僕に答えた。
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