手掛かり

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手掛かり

 コンビニでバイトをしているのだが、俺が休みの日に隣の店に強盗が入ったとかで、やって来た刑事に監視カメラの映像を見せてくれと頼まれた。  当日の画像を探し、見てみると、屋外に設置したカメラ映像の中にいかにも怪しげな男が映っていた。  辺りを窺いながら隣の店に入っていく。間違いなくこいつが犯人だろう。  別に俺の手柄ではないけれど、重要な手掛かりが映っていたことが嬉しくて、内心そわそわした気持ちになっていた俺の耳に、片方の刑事の落胆したような声が響いた。 「特に手掛かりはなし、か」  手掛かりなし? こんな、あからさまに犯人そのものの男が映っているのに?  戸惑う俺に捜査協力への感謝を告げ、刑事達は店を出て行った。  さっきの男は、もう調べがついて、潔白が証明された人だったのだろうか。それにしては映像が胡散臭すぎた気もするのだが…。  もう一度確認のため、画像を戻してみていたら、他のバイトがモニターを覗き込んできた。 「カメラ映像、どうだった? ……昼の暇な時間帯だから仕方ないけど、通行人すらいないな。せめて誰か映ってれば役に立てただろうに」  俺と一緒に画面を見ていたバイト仲間がそう洩らす。その発言に、俺は映像内の男が自分にしか見えていないことを悟った。  この男のことを警察に話すべきだろうか。でも、手掛かりはないと断定されたのに食い下がったら、俺が疑われる可能性もある。  強盗は入ったけれど、隣の店のご主人に無事だったし、取られた物もないらしいから、コレ、黙っててもいいかな。  犯人らしき男の映像が俺にだけ見えた事件。…おそらく迷宮入りになるんだろうな。 手掛かり…完
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