第1章

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 ゆびさきとつまさき  今でも何が切っ掛けだったのかは思い出せない。けれど、先に手を出したのは間違いなくあいつのほうだった。  雨宮澪。このあたし、百地直の宿敵だ。  その日は朝からオヤジにお小言を喰らったり、湿気で髪がまとまらなかったり、車に盛大に水を引っ掛けられたり、コンタクトを無くしてダサいメガネを掛けてくるハメになったりで、あたしも少々気が立っていた。 「でも、ダメだよナオちん。花の女子高生が殴り合いしちゃあ」 「殴り合いって、グーじゃなかったろ? それにあいつ、あたしのことクソヤンキー呼ばわりしやがったんだぜ?」 「ナオちんだって雨宮のことクソメガネって言ってたよね? 自分もメガネかけてんのに?」  ハイハイと、ため息まじりでいなしながらも、コトコが頬に絆創膏を貼ってくれる。  派手にやられたワケじゃない。避けそこなって、爪で引っ掻かれる形になっただけだ。あたしのビンタの方がきれいに決まった。  そろって保健室に行くのではではまた揉めるかもしれないと、連れてこられた軽音部の部室。備え付けの救急箱に絆創膏も入ってるのに、コトコは自前のキティちゃんのを使いやがった。 「なんでこう仲わるいかな?」 「あたしに聞くなよ!」  うちはわりといいとこの坊ちゃん嬢ちゃんが通う学校だが、風紀がゆるい。なので、あたしやコトコのような生徒も割合として少なくはない。クラス委員で真面目っ子の雨宮は、そういう所が気に障るんだろう。以前から目が合うと、眉を上げて奇妙なものを見るような顔をしていやがったものだ。 「ナオちん教室でうるさいからよけいに目立つんだよ。パツキンだし」 「金じゃねーし? ミルクティーだし!?」  そう見えるように、丹念に作り上げたキャラだ。多少のいざこざで、いまさら辞められるわけがない。  昼休みをそのまま部室で過ごし、午後の眠い授業をあくびを噛み殺しながらやり過ごしたが、学園祭の出し物を決めるホームルームが残っている。保護者向けの意味もあって、クラスでは舞台を使う演劇か合唱、どちらかを必ず選ばなければならない。  軽音部は部員が少ないから、出し物は舞台でのコンサートのみと決まっている。選曲も済ませてあとは練習するだけだから、退屈なクラス会議は手早く済ませてもらいたいものだ。
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