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それになにより雨宮と過ごす時間が多くなったのに神経を削られる。以前より当たりが柔らかくなったようにも思うけど、それはみっともなく泣き顔を晒してしまったあたしが、強く出れなくなっただけなのかもしれない。
あの事件が印象的に過ぎたのか、クラスの女子連中は脚本を弄ってでもキスシーンを入れたがった。あたしと雨宮の強硬な反対で指先へのキスに留まったが、そのぶん「唇じゃないから」と毎回本番を強要され胃が痛む。
演劇で裏方に回ったコトコは、模擬店が出来ないのが不満らしく、女子バスケ部の友人に頼んで、メイド喫茶のヘルプに入る気満々でいる。わざわざご苦労なことだとは思うけど、本人が楽しんでいるのなら止めるいわれはない。
夕飯を済ませたお風呂上りに、電子タバコのカートリッジを切らしているのに気付いた。高校入学前に、こっそり喫いはじめたものだ。無くても済むものだけど、なんとなく口さみしい。眠いのを我慢して、上着を羽織り帽子をかぶって、自転車でコンビニへ向かった。
お店によっては未成年には売ってくれないし、知り合いに見られるのも困る。そんな理由でいつもは隣駅との間にあるコンビニで買うのだけれど、今日はそこまで行く元気が残っていない。ものは試しで近場のドラッグストアに入ってみる。
「いらっしゃいませ~」
帽子をかぶっていて正解だった。聞き覚えのある通る声だと思ったが、棚の整理をしていたのは雨宮だった。あわてて棚の影に姿を隠す。近場を避けていたのは正解だった。うっかり電子タバコを喫っているのを知られてしまったら、いまごろなにを言われていたことか。
それにしても、こんな時間にバイトをしているんだ。部活――新体操部――の出し物の準備を、申し訳なさそうに断る姿を目にしたことはあったけど、こういう事情だったのか。
校則でバイトは禁止じゃないけど、今は高校生を使っていい時間帯じゃあなかったはず。べつに雨宮を気遣っているわけじゃないけど、ご飯は食べたのかなとか、帰れるのは閉店後だろうかとか。そんなことをぐるぐる考えながら眺めていると、店の奥から出てきた中年の男が雨宮に話しかけた。
店長だろうか? 今のうちに店を出てしまおうかと思ったけど、雨宮の表情が曇ったようなのが気になった。
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