0人が本棚に入れています
本棚に追加
学校にはバレエ部がないから、新体操部に所属しているらしい。
しょげるというより、むしろ晴れ晴れと吹っ切れた様子の雨宮の姿に、罪悪感を覚えた。
こうなってしまっては、ドラッグストアでのアルバイトは続けることはできないだろう。あたしは、余計なことをしてしまったのだろうか。
「店長も、学校に黙って時給の良いシフトに入れてくれたのは、下心あってのことだろうから。辞める口実が出来て、せいせいしたわ」
「あの……あたしは、あたしはね!」
何かに急き立てられるように、あたしは誰にも話していない秘密をぶちまけ始めた。
中学のとき、いじめられて不登校になったこと。そのころに電子タバコに手を出したけど、お酒のほうははダメだったこと。高校デビューでキャラを変えて、コトコや軽音部のみんなと友達になれて、ギターに夢中になったこと。
「そう」
何も言わずに、ただうなづいて聞いていてくれた雨宮は、あたしと目をじっと合わせたあと、頭を下げた。
「ごめんなさい。私、百地さんのこと、何の苦労もなく学校に通わせて貰ってるのに、まじめに勉強しない不良だと決め付けてた」
いまどき不良って……
「いいよ。あたしも雨宮のこと、いけすかない苦労知らずのお嬢様だと思ってたし……」
「でも髪の色は似合ってない。もっと大人しめの方が可愛いと思う」
「それ、この流れで言うこと!? でも……ありがとな」
「今度、その電子タバコってやつ、私にも試させてくれる?」
すっかり温くなっているであろうミルクティーを飲み干すと、雨宮は悪戯っぽく笑って見せた。
学園祭当日。いつまでたっても雨宮は学校に姿を現さなかった。
担任から怪我で緊急入院したらしいと知らされたあたしは、取るものも取り合えず学校を飛び出し、引き返して病院と病室を聞き出し、もう一度走り出した。
吹っ切れたような顔してたけど、ひょっとして、バレエ続けられないのを悲観して――
悪い方にばかり想像が転がる。
受付カウンターでひと悶着起こし、ようやく病室に辿り着く。
「あら? 百地さん……まさかその格好で来たの?」
最後の直し前のお姫様ドレス姿のあたしに、雨宮は呆れたような顔を見せやがった。
なんだこいつ? ピンピンしてるじゃないの!
「うるさいな! 下々のものは王族に道を開ければいいの!」
息を切らせながらも、役割通りのセリフで返す。
最初のコメントを投稿しよう!