違う屋根の下

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「そうは言っても。引っ越しもしないといけないだろうし」  今の家は3LDKの分譲マンションで、お父さん一人で住むのも、お母さんと私の二人で住むのも少し広すぎる。 「いや、たぶん里桜はこのままあの家で住むことになる。お母さんも、名字を変えないつもりらしいし。なにも言わなかったら離婚したって周りには気づかれないと思うよ」  家族が一人いなくなってるというのに、誰にも気づかれないなんて寂しすぎる。「ご両親離婚したんだって? 元気出してね」だなんて、腫れ物に触るような扱われ方も嫌だけど、今までとなにも変わらないというのもなんだか違う気がする。それに、私は別にそれを望んでいない。 「……そういうことじゃない」 「ん?」  お父さんはチャーハンを口に運んでほっぺを膨らませた。 「……ううん。なんでもない」  ぬるくなったコップの水を飲み干した。少し脂っぽいテーブルの上にできた水滴を人差し指でぐるぐるなぞった。 「里桜がこんなに物わかりのいい子になってしまったのも、オレたちのせいだと思うと辛いな」  もしかしたら、お父さんは鈍感なんじゃなくて、気がつかないフリをしているだけなのかもしれないと思った。お母さんに注意されても従わないのは、敢えてなのでは。お父さんはお父さんなりに譲れないところがあって、こういう結論に至った。夫婦として、二人は合わなかった。きっとそういうことなのだろう。  最後のエビをつかんでチリソースを拭い、たっぷりからめて頬張った。おいしい、と満足げにつぶやいたお父さんの目が少し潤んでいるように見えた。
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