違う屋根の下

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 この頃は、家族揃って出かけることも少なくなった。私が小学三年生の時にお母さんがフルタイムで働き出したことがきっかけだ。初めの頃は、お母さんも家族の時間を持つ努力をしていたように思う。いつからか土曜も日曜も仕事をするようになり、週末の夕食の準備をお父さんが引き受けるようになって、出かけると言えばその買い物のお供と、たまに早く出て一緒に映画を観るぐらいになってしまった。  だから、車の助手席はすっかり私仕様になっている。席の幅、リクライニングの角度も私好みに調整しているし、シガーソケットから延びているスマフォの充電ケーブルも私が自分で選んだメタリックブルーのものだ。お母さんは自分の足として軽自動車を買ってから、お父さんの車にはほとんど乗っていないと思う。  うちは特にお金持ちというわけではないけど、私が物心ついたころからお父さんはドイツ車に乗っている。そのメーカーが好きだという理由らしい。子どもの私にもわかるくらい、乗り心地はお母さんの車よりずっと良いし、何よりカッコイイ。だから私は気に入っているけど、お母さんは何かにつけて否定する。無駄だ、ローン地獄だ、と嫌悪感をむき出しにして責めてばかりいる。だから頑なに乗らないのかもしれない。 「で。どこに行くか決まった?」  お父さんは前を見たまま数回首を振った。 「いや。適当に走らせる」
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