違う屋根の下

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 BGMはお父さんが昔好きだったという歌手のアルバムを選択した。いつも、このアルバムをかけた瞬間すぐに鼻歌が始まるのに、今日はずっと前を向いたままハンドルを握っている。まるで私の存在を忘れているかのようだ。お父さんが考え事をしている時は、周りの声が一切聞こえなくなる。今日もきっとそうなんだろう。そんな時に話しかけたって、空返事しか返ってこない。 「昔は相槌すらしなかったのよ」と、不満げな顔でお母さんが言っていた。何度も嫌味を言ったであろうことは想像がついた。そのうちお父さんなりに反省をして、「話しかけられてると感じた時はとりあえず相槌を打つ」という術を身につけたのだと思うと、よく頑張ったね、と褒めてあげたくなる。  気づけば車は国道に出ていて、長い渋滞にはまっていた。 「混んでるなあ」  独り言のようにたまにつぶやくものの、お父さんは相変わらず黙ったままだ。だいたい、ドライブに行こうって言ったのはそっちなのに。どうせ話しかけても上の空だし、と、私はスマフォを開いて適当にネットをうろうろし始めた。だけど、目的のないネットサーフィンはすぐにやることがなくなってしまった。退屈なのと、睡眠不足なのとで途中からあくびが止まらなくなってしまった。症状はどんどん悪化し、あくびをして、すぐにまた次のあくびという具合だ。 「……ちょっと寝る」  言い終わらないうち、今度は涙がこぼれるほどの大あくびが出た。もうだめだ。後部座席からブランケットを引っ張ってシートを倒すと、すぐに深い眠りに落ちた。
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