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「里桜、着いたぞ」
お父さんの声ではっと目覚め、カーナビで時間を確認する。出発してから二時間ほど経過していた。シートを起こし、辺りを見渡した。寝起きの頭ではすぐに正しく判断はつかないながらも、どこか引っかかるような光景に、急いで記憶の糸をたどる。
遙か向こうに広がるミニチュアのような街並み。五階建ての古びた建物、その横の駐車場には何台か車が並び、石垣と金網で歩道と仕切られている。左手には小さな公園があって、赤い滑り台があるのが確認できたところでようやく線が繋がった。
「あ……! ここって昔住んでたとこ?」
間違いない。私が幼稚園時代を過ごした場所だ。小学校に上がるタイミングで都心部に引っ越しをしてから一度も足を運んでいない。周りの風景が少し変わった気がするけど、それすら自信がないほど記憶が薄い。でも、あの赤い滑り台のことはよく覚えていた。
「そうそう。あそこに見えるC棟の、何階に住んでたか覚えてる?」
「わかんないなあ。二階か三階だった気がするけど」
「惜しい。四階な。窓際に花飾ってる家あるだろ?あの右隣の部屋。ああ、オレも久しぶり過ぎてちょっとテンション上がってる」
ずっと無表情だったお父さんがようやく笑った。外に出ようという合図をしたので、私もシートベルトを外してドアを開けた。
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