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公園は小さなベンチが二つと滑り台、そしてこぢんまりとした砂場と、黄色い塗装が剥がれかけたシーソーが一台あるだけだった。
「里桜、下の砂場が怖くて滑り台できなかったんだよなあ。大丈夫だって言っても、やだやだって泣いてさ」
お父さんは声を出して笑った。滑り台のことは覚えているけど、滑れなかったことなどまったく記憶にない。
「あの水飲み場でびしょびしょになったこと、あったよね」
どういうシチュエーションかはわからないけど、服から下着から、全身ずぶ濡れになってしまったことを思い出した。
「ああ、あったな。最初オレがちょっとずつ水掛けてたら、里桜がキャッキャ言って喜ぶからエスカレートしちゃってさ。帰ってからお母さんにすごく怒られたな」
お父さんは茶色のプラスチックのベンチにゆっくりと腰を下ろした。昔ならこの膝の上にちょこんと座るのが好きだった。さすがに今は、拳一つ分くらいの距離を開けて隣に座る。あの頃も今も、お父さんに対する気持ちは変わっていないけれど。
「夜、お父さんが帰ってくるのをあの窓から見てたような気がする」
食卓の椅子によじ登れば、腰高の窓から外の景色が見えた。この公園はもちろん、その脇の歩道まで確認できる。
当時はまだお母さんも働いていなかった。お父さんは八時を過ぎないと帰ってこないから、先に夕飯を食べていた。夕飯後のお母さんは家事で忙しいから、遊んでくれるお父さんの帰りが待ち遠しかった。
「そうだったな。うっかり里桜が見てることに気がつかなくて手を振らなかったら、家帰った途端すんげー怒られるの」
帰宅したお父さんは夕飯を食べながら私の相手をして、その後もお風呂が出来るまで遊んでくれて、お風呂でまた遊んで、というのが毎日の流れだった。
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