1人が本棚に入れています
本棚に追加
今日は本当に良い天気だった。
空には雲一つなく、柔らかな日差しはぽかぽかと心地良い。緩く吹く風は爽やかで、時折、鳥の楽しげな声が響く。
僕とアンは手を繋いで、木々の間をゆっくりと歩いた。
アンは美しい花や、不思議な木の実を見付ける度に足を止めてそれらを眺め、舞う蝶や木々のざわめきと一緒に、時々少し調子の外れた歌を歌ったりした。
僕は隣でその表情を見て、その声を聞くだけで満たされた気持ちになった。
アンは時々そんな僕を見て、音痴だからって笑わないでよ、と言いながら楽しそうに笑った。
やがて辿り着いた湖のほとりで、僕らは柔らかい草の上に座り、お弁当を食べた。
ハムとレタスとトマトのサンドイッチは少し形が崩れていて、それを見て僕らはまた笑った。
それから僕らは、水筒に入れてきたアイスティーを飲みながら、空の青を映した美しい湖を眺めた。
しばらくするとアンは立ち上がって湖に近付き、水の中を覗き込んだ。
隣に並んで同じように水の中を見ると、小さな魚の群れが陽の光を反射してキラキラと輝いているのが見えた。
アンがスッと手を伸ばすと、その影に驚いた魚たちはパッと散らばってしまった。
「元気ね、魚たち」
「そうだな」
そう短い会話をしている間に、魚たちはまた集まって、小さな群れを作っていた。
パシャン、と水を弾く音がして、僕らは音のした方に視線を向けた。湖の中央に近いところから、丸く波紋が広がっている。
僕らの視線の先で、また一匹、大きな魚が跳ねた。先に広がった輪に重なるようにして、再び波紋が広がっていく。
「綺麗ね」
アンが言った。
「そうだな」
僕は答えながら、遠くを眺めているアンの横顔ばかり眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!