運命の行方

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1時間程が過ぎていた。 母親が戻って来る気配は無い。拓磨は少し不安になった。 ………更に、1時間が過ぎた。 拓磨は焦り始めた。しかし、母親の言葉を信じるがあまり、拓磨は更に待ち続けた。 やがて、夕日が西の空に浮かぶ雲に掛かり始め、遠くの空の彼方からカラスの鳴き声が聞こえて来た。遂に、拓磨は不安に耐え切れなくなり、シクシクと泣き始めた。丁度、そこへ巡回中の駅員が通りかかり………。 「………どうしたんだい、坊や?」 拓磨は、泣きじゃくりながら話した。 「ママが、ママが………。」 駅員の取り計らいで、警察を通して、拓磨は若葉の森へとやって来たのである。 そして………。 何時しか修二と拓磨と行動を共にする様になっていた未季。………彼女は、不可思議な境遇の星の下に生まれた少女であった。幼少時代、未季は記憶を失くしたまま、放浪していた。 気が付くと、彼女は独りぼっちで路上を歩き続けていた。覚えている事と言えば、『ミキ』と言う名前ばかりで、両親の事も、自分が何処で暮らしていたのか、今迄、何処で何をしていたのかさえも分からなかった。 彼女は、何処かの外国の民族衣装を想わせる身なりをしていた。靴も履かず、裸足のままで、若葉の森の施設の敷地の中で倒れていたところを施設の職員に助けられた。職員が彼女に名前を尋ねてみると……………… 「………ミキ。」………とだけ答えた。 それから、職員が色々と話し掛けてみたのだが、彼女は一言も口を開く事は無かった。身元不詳の彼女の事を不憫に思った施設の園長の榎本枝美子は、彼女を養女とし、未季は榎本の姓を得るのであった。 未季が施設を訪れてから10日余りが過ぎた頃、ようやく彼女は口を開く様になっていた。 喜怒哀楽の感情表現は未だに乏しかったが、しかし、彼女が笑顔でいると、周囲の人間を何故かしら明るい気持ちにさせる程であった。彼女も読書に興味があるらしく、暫くするうちに修二や拓磨と会話を交わす様になっていた。
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