傷痕

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傷痕

その女は、虚ろな表情を浮かべながら、トボトボと歩き続けていた………。 その後を女の背中越しに気付かれる事も無く、忍び足で追いかけて行く修二・拓磨・未季。 女の足取りは、やがて、人気の無い森林地帯へと向かっていった。尚も、それを追いかけて行く修二たち。女は一体、何処へ向かおうとしているのだろうか?そして、其処で何をしようとしているのだろうか………。 やがて、女は、何百年も昔から聳え立っているだろう大樹、むしろ、御神木と呼ばれるに相応しいであろう老木の傍らで歩みを止めた。 「……………………………………………。」 女は、暫くの間、その老木を見上げて、見つめていた。女は、ポツリと一言、呟いた………。 「………これが、私の運命なのかねぇ。」 そう呟いたかと思うと、唐突に、女は懐に隠し忍ばせていた麻の縄を取り出し、老木の枝にその縄を結わえ付けて、今、正に首を吊ろうとしているのであった。 「………いけない!………止めなくちゃ!!」 ………思わず、未季が叫ぶ!! そして、修二たち3人は、女の傍らへと急いで駆け寄り、必死になりながら、その女の行動を制止するのであった。女は、何度と無く、泣き喚きながら叫んだ。 「………アンタ達、邪魔をしないで!!ワタシなんて、ワタシなんて、………生きてても仕方が無い人間なのよぉぉぉ。」 そして………………。 場所は変わり、其処は老木から少し離れた砂場で倒れかかった樹木に腰を降ろして、その女の話を聞いている修二・拓磨・未季。 「………実はね。………ワタシ、………震災のどさくさに紛れて、振り込め詐欺なんかに騙されてしまってねぇ。………だから、いっそのコト、ひと思いに死のうと思ってさぁ。………ホント、質の悪い輩ってヤだねぇ。」 ………女の名は、名取 君枝と言った。 ………女は、確かにそう名乗った。 事の始まりは、東日本大震災から3日程が過ぎた頃からなのだが………。君枝は、夫の周平と一人息子の太一との3人家族であったのだが、先の震災で、夫の周平を亡くし、息子の太一は仕事の関係で上京しており、生まれ故郷を留守にしているのであった。 その矢先での出来事である………。
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