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迷える子羊たち
若葉の里児童園の園長・榎本枝美子は、震災の当日に限って、地元の岩手県を遠く離れて、九州は熊本県の益城町にある児童養護施設へと研修に赴いていた。
災害時に於ける対策についての会合である。
全ては、その最中での出来事であった………。
枝美子が東日本大震災の実情を知り、現地へと辿り着いたのは、震災から10日余りが過ぎた頃の事だったのだが、若葉の里児童園の施設の建物の姿形は既に無く、施設の関係者の現状は死亡、若しくは行方不明のままであった。
その不明者リストの中には、修二、拓磨、未季の名前も含まれていた………。
そして、その頃………。
東日本大震災から1週間程が過ぎようとしていた頃の事。震災の被害を受けた瓦礫の町並みを私営のボランティア・クルーが清掃している光景を、近くの木陰で眺めている3人の少年少女の姿が其処にあった。
寺岡修二、小池拓磨、榎本未季………。
彼等は、震災の生存者であり、其処は若葉の里児童園の施設の建物の跡地で、その傍らには『若葉の里児童園』と記された古ぼけた看板だけが、如何にも申し訳無く残されてあるばかりで………。
修二が、ポツリと一言、呟いた。
「………何だか、虚しくないか?」
拓磨が、修二の方を向き、尋ねた。
「………何が?」
修二は、拓磨と未季に話した。
「………皆、あっと言う間なんだよ。俺達が生まれる前から、色んな誰かが築いて来たモノが、あっと言う間の一瞬で何もかも消えてしまう。人間がしている事に、今まで人間がして来た事に、意味なんてあるのかなぁ。」
「…………………………………………………。」
拓磨と未季は、只々俯き、口を閉ざしているばかりであった。暫くの間、3人は遠くの空を眺め続けていた………。
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