「spark down」

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 ランスロットが主人と出会ったのは二か月ほど前だ。  この国では歴代、勇者が魔王の封印を守っている。  そしてはじめに魔王を討伐した勇者の末裔が代々この努めを受け継いでいた。  勇者は、その血が途絶えぬようすべての子孫に勇者の務めを継承していったために、当然、その数は膨大に増えてしまった。  ゆえに、それぞれの家から一人ずつ、勇者候補を決め一番初めに勇者の証を国王に示したものがその代の勇者となるのだ。  主人は勇者の末裔の一人だった。  勇者の末裔たちは一人で旅立つことは許されていない。必ず国家直属の随行者を連れていかなければならなかった。  旅立ちの儀式で集った者の中から旅の共を選んで連れ立つ者もいるが、勇者の末裔と随行者の一族とは直接繋がりを持っている場合もある。  ランスロットの一族、スチュワート家は後者だ。そしてランスロットの主人の一族、ハワード家はかつて二代目の勇者を輩出したことのある名家だ。  ランスロットの先祖が二代目勇者の随行者だったことが両家の繋がりだった。  勇者の証が何なのか。  それは国王と勇者の末裔しか知りえるものではないと聞く。  そして、そう簡単に得られるものではなく、手に入れるまで先の代は七年がかり、最長では二十三年間にも渡ったという。  そんな旅を、勇者を支えながらお供をする随行者一族も、相応の教育、訓練を受けている。   ランスロットとて多分に漏れず、その日が来るまで鍛錬を積み重ねてきた。いよいよ勇者のお供をすることが決まった日は、自分を誇らしく思ったものだ。  もし、自分が該当する年齢である時代にハワード家の勇者の旅立ちが決まったとしたら、どんな勇者と旅をすることになるのだろう――。  勇者の随行者の家柄に生まれたものなら必ず想像する。  カイン・ハワード。  ランスロットが随行することになるハワード家の勇者候補だ。彼の名前は聞かされているが一度も会ったことはない。  想いを馳せ、歴代勇者の肖像画の一つ、二代目勇者を見るため幼い頃からお城へ何度も通ったものだ。   そしてついに勇者の旅立ちの儀式、国中の勇者の末裔が登城する日が来る。  いよいよハワード家の勇者に会う時が来たのだ。  この時のため、剣術も魔術も学んだ。自信に満ちたランスロットの胸は弾み、希望にあふれていた。必ず勇者の役に立つと、意気込んだ面持ちは輝いていた。
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