「spark down」

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「私は誰よりも早く魔王を見つけるよ。今、目指しているのは頭の部分だ」  気分の悪さに、ランスロットは歩みを止めた。 「どうした? まだ、いくらも進んでいないぞ? それともコレの邪気に中てられたか?」  前を歩いていた主人は、ランスロットに向き直り「実はね」と、話をつづけた。 「私はすでに、一つ。勇者の証を見つけていたんだよ」  主人は屈みこみ、ランスロットの目を(とら)える。  その目はくりくりと、嬉々として輝いていた。 「ここらでお前には見せておこう。私の秘密を」  主人が服の(すそ)を大きくはだけると、そこには苔むした古木があった。  目にしたものを頭が受け入れられずにいる。 ”彼は義足だったのか” ランスロットは間抜けなことを思った。 「魔王の姿形は人とは違うが、五体から成っている。私が見つけた魔王の体の一部――つまり勇者の証は左足の部分だったようだ」  苔むした古木だが、人の脚の形をしていた。それが彼の足だった。  主人が動かして見せると、ぎしぎしと軋む音を立てた。 「封印は五体をバラバラに分けて施されていてね。それらは一見(いっけん)して魔王の一部だとわからない()りをしているんだよ。私が見つけたのは桑の苗木だ。それが勇者の証だ」 「……そ……そんな。ではそのお姿は……憑りつかれてしまったのですか…」  ランスロットは悪心(おしん)のあまり地に膝をついた。  つまりはこの人は、魔王の一部を見つけたのにもかかわらず、勇者の務めである封印を施さなかったのだ――。  持ち去ったがためこのような体になった。それでも魔王の頭を探している。  それがどういうことなのか。  考えるのも恐ろしかった。  だが、これはそんな程度の話ではなかった。 「いや。私はそれを――桑の苗木を喰ってみたんだ」  主人の言葉に、ランスロットは絶望した。
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