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「神様は……おわします。必ずどこかであなたを見ています……」
「ふむ。魔王の左足を喰ったとき、私も期待したが、この通りだ。雷も鉄槌もくらっていない。神などいない」
そんなはずはない。
神は、神の間に座し、人々を導いているのだ。彼にも、必ず裁きが下るはず。
そう、強く思いながらもこれまでの数々の所業が甦る。旅立ちからこれまでの間、あらゆる災厄を振りまいてきたが我々はどうだ。平然とここに居る。罰は下されていないのだ。
「私の言うことをよくよく反芻してみろ。それでもまだ神がどうとかつべこべ言うなら、どれ。魔法をかけてやろう。魔法の使えない私にも使える、言葉の魔法だ。――いいか、よく聞くんだ。“お前は間違っている”」
ランスロットは嗚咽を返すしかなかった。
「……これから……どうするおつもりですか」
「ん? 魔王の頭を、かね? 五体そろえて封印を解いてみることも考えたが、私の左足がどうなるのかが心配だからそれはナシだ。足を無くしては困る。喰える形状であればまた喰ってみるかな。見てから決めるつもりだ」
「…………」
ただただ、すすり泣くランスロットに、主人はため息を吐いた。
「ランスロット……。私とて、まさか初めから魔王を暴こうなどと思っていたわけではない。お前も知っての通り、私はもう今年二十九だ。勇者候補として年齢の期限が差し迫っていたわけだよ。
私は現職に満足していたし、九代目勇者になど興味もない、なりたいとも思わない。ほら。私のこれまでの人生、どこにそんな要素がある?
だが、どうだ。その私に魔王を探せと言ってきたのはあちら様のほうだ。世界がそう言っているのだよ。私も男だ。なぁ? 据え膳食わぬのも恥、私は運命に従っただけだ。
おや? これはお前や大衆が言うところの“神の思し召し”なのでは? そうだ。神が世界を壊したがっているのだよ」
フフフ。と、主人が笑う。ランスロットは疲れ果て、もう、涙も出なかった。
思い浮かぶのは自宅の自室の自分の寝台だけだ。柔らかな羽布団に身を預け、もう一度目覚めたい。あの日の朝からやり直したいと願った。
それが叶うなら……。
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