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『まあ、なんにせよ。これで南の女皇さまとの契約は完了したわけさ♪』
勇者は、帝国皇室御用達の羊皮紙を広げ、任務が完了した旨を伝えるため、【Fertig《完了》】の文字を指で三度なぞった。
途端に、羊皮紙は白鳩に変化した。
パタパタパタパタ。。
『ねえ黒ちゃん。あの笑顔のとっても素敵なお姫様さま。。喜んでくれるかな』
『大丈夫だよ白ちゃん。これでやっと祖父皇や父皇、それに大好きだった兄皇の仇が討てたんだから。。きっと!そう、きっと心から笑って喜んでくれるよ♪』
ふたごの魔法使い。
白と黒の色違いだが、同じデザインの魔導服にローブを羽織った十代半ばの可愛らしい少女たちは、3ヶ月前にあった南の帝国の、気高く高貴ないでたちながらも、まだ幼さを表情いっぱい残した幼い女帝の御姿を瞼に浮かべた。
そうあれは、あたしたちが都を出ていく前の夜に彼女がみせた、あまりにも身内の敵討ちにこだわりすぎて切羽詰まった。でも実はそれだけじゃない、民を護り思う深い気持ち。
心まで苛まれたかけていた弱々しい姿。
いま思い出しても、…哀しくなる。
魔法使いのふたりは手を握りあい、自分たち一行の頭上を一巡して、白鳩はパタパタ、パタパタと、羽を陽光に照らされながら、大陸南の帝国めがけ羽ばたいて、厚い雲の中に消えていくまで見つめていた。
『勇者よ。鳩の飛行行程は帝都まで10日。といったところか?』
『…普通に行で2ヶ月。俺たちは闘いながらで3ヶ月。たぶん、あの伝鳩が、途中で魔鳥にでも捕食されなかったら、それくらいでお姫様のもとに辿り着くんじゃないか?』
勇者と武人はお互いの顔を見合わせて、ニヤリと不敵に笑い、パンッ!と、お互いの右手を打ち鳴らせた。
なんにせよ、あの気高く誇りに満ちた、それでいて内に秘した悲哀を帯びた横顔を、月夜のもと晒しながら毎夜涙ながら途方に暮れていた彼女の、ささやかな願い《敵討ち》は叶えられた筈だ。
そう、彼女を親心から心配していた、大叔父の大公爵も彼女のため願っていたように。。
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