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目を覚ますと、微笑む沙由里の姿が視界にはいった。
「おはよう」
と、優しく語りかける彼女に、ぼくは横たえていた頭をすこしだけ持ち上げる。
「まだ、眠たい……もう少し寝かせてよ」
「ふふ。じゅうぶん寝たでしょ。ほら、起きて」
そう言って、ぼくの頬にキスを落とした。
(キスされても、眠いものは眠いんだ)
ぼくは、布団に潜り込むと、身体を丸めた。
沙由里は清楚で知的な女性だった。
スタイルはいいし、なりより可愛い。さらに、温厚な性格で裏表がない。
そんな彼女からは、いつもいい匂いがした。
ぼくは、香水が嫌いだった。あの匂いを嗅ぐと、鼻がおかしくなってしまう。
けれど、沙由里の匂いはそうじゃない。ほのかな石けんの混じった甘い香り。彼女の香りが鼻腔を満たすたび、ぼくは幸せな気持ちになった。
数分後、ベッドからのそりと這い出ると、沙由里のもとへ行った。
「あ、やっと起きたんだ」
呆れたような顔をする彼女に、ぼくは欠伸で返す。
「ふぁ……だって、朝が苦手なんだ」
「相変わらずお寝坊さんね。はい、いつもの」
沙由里がぼくの前に置いたのはホットミルク。
ありがとう、と言って、ぼくはソッと口を付けた。ぼくの身体と同じくらいの温度に調節してくれている。熱いのが苦手なぼくのために。
ぼくのことをいつも気づかってくれる沙由里。そんな優しい彼女のことが、ぼくは大好きだった。
彼女との出逢いは、一ヶ月前。道端で倒れているところを彼女に助けてもらった。雨の降りしきる中、彼女はぼくを家に連れていくと、ずぶ濡れの身体をていねいに拭いてくれた。そして、ぼくを抱きしめると言った。
「好きなだけ、ここにいていいんだよ」
嬉しくて堪らず泣いてしまった。沙由里は、冷えきったぼくの心と身体を温めてくれた。
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