1人が本棚に入れています
本棚に追加
畳を這っている蟻を眺めている孝夫。
ゑばの声「孝夫さ、孝夫さ」
“さん”と呼ぶべきところを省略されて“さ”になっている。
孝夫「(顔を上げて)何?」
ゑば「(障子を顔の分だけ開いて)ちょっと」
と、招き猫のように孝夫を呼ぶ。
孝夫「何よ」
○ 奥座敷
ゑばについてくる孝夫。
ゑば「きょうはお休み?」
孝夫「うん。
学校の創立記念日」
ゑば「だったらお使い頼みたいんだけど」
孝夫「いいよ」
ゑば、小銭入れから一つ一つ小銭を出して孝夫に渡す。
ゑば「お釣りはおこずかいだ」
孝夫「ありがと、で、何を買うの」
○ 一ツ木通り
まだ事務所ビルは少なく、個人商店が立ち並んでいる。
歩道も舗装されておらず、二車線だ。
孝夫、歩いている。
○ 同・肉屋
大きな犬がつながれている。
やってきた孝夫、反対側の歩道に渡って大まわりして通り過ぎる。
○ 同・酒屋・外
まだ自動販売機はない。
○ 同・中
孝夫「(入ってきて)赤玉ポートワイン下さい」
店員「(子供が酒を買いにきたのを訝しんで)お父さんが飲むの?」
孝夫「(首を横に振る)」
店員「じゃあお母さん?」
孝夫「(首を横に振る)」
店員「君じゃないだろうね」
孝夫「…お母さんが飲む」
店員「ポートワインね」
と、ワインを取りに行く。
最初のコメントを投稿しよう!