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第一章 バンビ
もう、どれくらいの距離を歩いてきただろうか。
振り返って後方を確認してみるが、目印として採用できそうな物は見当たらず、距離感が掴めない。
通信システムを使えない状態が、これほどもどかしいとは考えたこともなかった。持ってきた端末も、ここでは全く用をなさない。
地図を広げ、方位磁石を取り出し方角を確かめる。幸い、まだ陽は高い。方角さえ間違っていなければ日没までには着くだろう。
こんな筈ではなかった。もっと快適な道程だと期待していたのだ。
こんなことなら、もっと町の──パンテオンの近くに降ろしてもらえば良かった。
後悔先に立たずとは、よく言ったものだ。
辺りは一面の荒野。
暑くはないが、草木はほとんど見当たらず、渇いた土がむき出しの地面のせいで、風が吹くたびに大気が埃っぽさを増す。
おそらくは、その土埃が原因なのだろうが、遠景は靄がかかったようにぼやけている。
見上げても見通しは利かず、頭上は黄土色に染め上げた布に覆い尽くされているかのような有り様だ。地面に到達する頃には、光は既に勢いを失っている。足元に落ちる影も甚だぼんやりとして輪郭を欠いている。
ぼやけてはいるが、町はかなり前から見えている。
だから、すぐに着くだろうと思って高を括って歩いているが、先程から、なかなか距離が縮まらない。
慣れない土地では、距離感も掴み難いものだ。道標に出来そうな物が何もないことにも起因しているだろう。
背負った荷物が徐々に重くなっているように感じられる。徒労感だけがどんどん蓄積されていく。
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