底なしの心地よさ

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 草地の中に、沼は巧妙に隠されていた。枝の上に草を敷き詰め、その上に土をかぶせ、さらに草と落ち葉を敷く。今にして思えば、あの遠吠えは、俺のことをこの落とし穴まで誘導していたのかもしれない。  沼から抜け出そうと足掻くうちに、俺の方が狩られたのだということを理解した。手を伸ばしてどうにか掴んだ木の根を力強く引っ張る。バキという乾いた音と共に引きちぎれたそれが、根っこなどではなく、動物の骨だった時に、俺はもがくことをやめた。  せめて、俺を狙ったやつをこの目で見てやる。俺がこれまで狩ってきた数多の獣の中で、真に勇敢だった者たちは、最後の瞬間にも俺から目を離さなかった。今でも、死に瀕してなお誇りを忘れなかった彼らの強いまなざしは忘れられない。俺も、彼らのように、強者に誇りを刻み付けて死にたい。  そのためには、溺れて死ぬわけにはいかない。これ以上沈む速度が上がらないよう、静かに耐えなくてはならない。ライフルの重みも邪魔だ。装備品を外して投げ捨て、呼吸を整え、集中を白樺の隙間に張り巡らせる。  沼は今や胸をも浸し、まとわりつく泥の温かさに、汗が噴き出す。夕方の風が汗の浮いた額を通り過ぎると、光のカーテンがオレンジ色に染まり、彼方の山に向けて数羽の鳥が飛んでいく。一つまた一つと、生き物の気配が去っていく。     
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