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「どうしたのかな? 二人とも、緊張しちゃった?」
私たちは何も言葉を発しないまま、繋いだ手から伝わる体温に耳を澄ませていた。
女の子も、嫌な顔ひとつせず黙って私に体温を分けてくれた。
彼女の話を聞いてあげたことが、そんなにうれしかったのだろうか。
いや、うれしいに決まっている。
私には分かる。
だって、私がそうだから。
私なら、私の話をジッと聞いてくれる存在がどれだけうれしいか分かる。
普段、私の言葉や話は当たり前に他人から遮られるものなのだから。
きっと彼女もそうなのだ。
私は確信にも似た決めつけで、彼女の手を強く握った。
「はい、ありがとう。もういいわ。次のお友達どうぞ」
審査員の言葉を受けて、ようやく舞台の裏に下がることができた。
私は連絡先でも聞こうとして「あの」と口を開いたけれど、彼女は一言「手、痛いから」とだけ残して一人で去っていった。
取り残された私は、乱雑に積み重ねられた小道具の間に潜む鏡と目があった。
そこには、ピンクのリボンがおそろしくズレた私が立っていた。
***
コンテストが終わった後、母は何も喋らなかった。
私の腕の中には『参加賞』と書かれたお菓子の袋。
帰りのバスの車内はガラガラだったけれど、わざと私とは少し離れた座席に座ろうとしたのでそれに従った。
斜め後ろから母の髪を眺める。
今日のために白髪染めをしたはずなのに、もう立派な白い髪が一本見えている。
私はそこから目をそらして、窓の外を流れていく景色に集中した。
木。
人。
犬。
クリーニング屋の看板。
電柱。
人。
人。
人。
私の話を聞いてくれる人は、いつ現れるのだろう。
少なくとも、いま目の前を通り過ぎていく人たちの中にはいないのだということは、私の頭でも十分理解できた。
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