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「良い? 練習通りにやるだけだからね」
母は私の頭に飾られたピンクのリボンがズレていないか最終チェックをする。朝から何度も聞かされた台詞をやっぱりもう一回口にして、ようやく控え室から去っていった。
今日は美少女コンテストの日だ。
地区予選らしい。
ここで勝ち上がると決勝にいけるけれど、私は正直自分のことを美少女だとは決して思っていない。
能面のような起伏のない表面に、目と鼻と口がくっついているだけだ。
パーツだけみれば、切れ長の二重瞼に小さいけれど形の良い鼻、真っ赤で薄い唇は良いように見えるかもしれないけれど、バランスがとにかく悪いと思う。
母以外に、容姿を誉められたことはない。
でも、私はここにいる。
この日のために買い求めた真っ白のワンピースに、紺色のボレロ。靴だけは二年前のものを母が靴磨きで昨日丁寧に磨いた。
磨きすぎで、左足だけ色が薄くなっている。
母は、不美人ではないと思う。
でも父と離婚してから、ちょっとおかしくなった。
私に必要以上にかまうようになったし、「こんなに可愛い娘を置いて出て行ったこと、後悔させてやらなくちゃ」が口癖になった。
私は子供だけれど、母の言い分が本心でないことは分かっている。
正しくは、「私を捨てたことを後悔させてやる」だろう。
私のことじゃない。母は自分を大事にしてほしかったんだ。でも正直に言うのは恥ずかしいから、私が代わりになっている。
しかし私は母の娘であって、彼女の意向には決して逆らえない。
逆らったら最後、とんでもなくおそろしいことが待ちかまえているのだ。
まだ一度も逆らったことがないから、具体的にどんなことが起きるかは、わからないけれど。
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