日本が沈没へと向かう日

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 体育館では、時々俯き加減の湯築は、今は更衣室で体操着に着替え、ふくよかな胸を強調している。その胸は今まで走るときにも自分へ自信をつけてくれていた。 「そう……じゃあ、武はどう?」  狭い更衣室で女子たちは、武は来ないかとしつこかったが、湯築にやんわり「来なかったわ」と言われ、皆ふて腐れている。  湯築の青春が始まったのは中学の頃からだ。  成長過程で、背が伸びると湯築は急に足が速くなっていた。マラソンやジョギングをし続けた。何故なら、そんな湯築にも好きな男子に一度フラれた経験があるのだ。  心に傷ができるほどの失恋を経験したようだ。  そのために、自分に更に自信を持ちたかったのだろう。  けれども、運の悪いことに二度目の恋は武だった。  当然、麻生がいる。  部活で平和的に麻生と対決をすることで、少しでも武との距離やわだかまりを解消しようともしていたのだろう。しかし、それも無理なのだ。  もうすぐだ。  日本が沈没するのだ。  武は教室の隅で高取と何やら話していた。  武の隣の席の麻生もこの時ばかりは少し陰りのある顔になっていた。 「明後日には辿り着いているわ。この学校から……」  高取は机に広げた伏せてあるタロットカードから一枚引いた。  世界のカードである。 「俺が、どこかの神社に行くのか?」 「そう、そうしないと世界が……終わるのよ。私の占いの的中率は知っているわよね。ねえ、武さん。でも、あなたはこれから大きな力を得るの。その、存在していない神社で……」  高取は世界のカードを目を瞑って無造作に引いていた。 「何度引いても昨日から世界のカードを引いてしまうの」  それから、高取はおかっぱ頭が左右に揺れ、独り言のように呟いた。
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