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昼の二時をだいぶ回ったところである。
「御目覚めましたか?」
ここ朱色の間の武の隣に座る鬼姫は、昼餉をわざわざ運んでくれていたのだ。盆の上には、白米と猪肉。味噌汁に漬物。煮物が暖かそうな湯気を出している。ここから見ても、とても美味しそうである。
「あ、ありがとう」
武は上半身だけ起き上がると、盆の前で疲労と腕の怪我、足の出血なども気にせずに律儀に「いただきます」と言ったので、やはり少々、真面目過ぎなのではとも思う。
辺りには、箸の運ぶ心地よい音が響き渡った。
その時、巫女姿の湯築と高取が部屋へと入って来た。
「武!」
「体は大丈夫?!」
高取と湯築は武の袂へと心配して駆けて来たのだが、鬼姫の鋭い殺気に似た威圧を受けて、二人ともたじろいでしまったようだ。
鬼姫は何故か高取と湯築に冷たいようだ。
鬼姫も武を好いているのであろうか?
この先、武には何が待ち受けているのだろうか?
「武様!」
「武様!」
「武様!」
あの三人組も来たが、同じく鬼姫は恐ろしいとまで言える冷たさで顔を向けた。
だが、三人組はまったく気にしていないようである。
「大丈夫ですか?」
片岡が傷口を覗いている。
「ああ……。だいぶ良くなったよ。ありがとう。それにしても、鬼姫さん……怖。……いや、何でもないや……俺はこれからどうなるんだ? 稽古なら今すぐにしたい気持ちだけど、傷が治らないとやっぱりまずいよなあ。あ、ご馳走様でした」
武は全て食べ終わり、箸を置いた。
武の方に向いた鬼姫は一転して、花が咲いたような笑顔になったようだ。
「ええ、まだお休みしていてください」
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