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今度は武の番である。
ここ修練の間の中央で木刀を構えたが、武は微動だにしない。いや、動けないのだ。
ドンっと、相手の鬼姫が刀を構え腰を落とすと同時に、周囲の空気が一斉に逃げ出したかのような凄まじい風圧が巻き起こった。
周りの灯篭の火が全て消えた。
暴風を受け、熱気と威圧感の嵐の中。武は必死に、まるで一枚の紙切れと化した木刀を構えて、踏ん張った。
武は恐怖を全く感じていないはずはないのだろう。
ただの意地であろうか?
あるいは、何かの必死さからくるものか?
鬼姫が力を抜き刀を鞘に納めた。周囲の空気が途端に穏やかになった。
「武様。良い気概です。無事、今日の稽古は終わりです」
何もしていないというのに、汗だくの武は律儀に礼をしていた。
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