晴れた地

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「早く逃げないと!」  卓登はアスファルトを血塗れにしている吹雪を、なんとか肩に担ごうとしていた。  一体の龍が咆哮を上げながら、鎌首を卓登へ向けた。 「私が囮になるから!」  麻生は床を蹴って五体の龍の中央へと、走り出した。  吹雪を屋上の入り口まで運ぼうとしていた卓登が悲鳴を上げた。その時、屋上の入り口から武が踊りでた。  武は真っ先に麻生の元へと、駆けつけると、麻生に噛みつく寸前の龍の顎目掛けて正拳を打った。ごりっとした音と、共に鮮血が辺りに舞った。  龍の顎から血が出たのと同時に、武の腕には、もう一体の龍の大口が食い付いていた。麻生は、気をしっかり持って、武の腕を龍の口から引き離そうとした。  やっと、それぞれの生徒の家族や先生が卓登と吹雪を学園内へと非難させ、五体の龍目掛けて椅子や机を投げつける。  五体の龍の咆哮は少しも衰えていなかった。  何人かの人が龍の牙に傷ついた。  中には、大怪我をした人もいた。  武は牽制のために、瞬く間の体さばきで五体の龍の顎へと数打正拳突きをめりこませると、それぞれ血を流した五体の龍が怒りだした。  五体の龍が屋上のアスファルト目掛けて、頭から突っ込んだのだ。  バラバラに粉砕した床から、人々が海へと落ちていく。  一方、高取はこのどさくさ紛れに湯築に救命具の二つを渡していた。バランスを失った床の上で、何も言わずに湯築は救命具を付けて武の元へと走った。高取も走り出した。  麻生は目を瞑った。  傍の武は麻生を庇った。  五体の龍の顎が迫っていた。 「もう、ここも駄目ね」  隣に佇む麻生が呟ていた。その表情は暗く、どこか寂しげのように思えた。 「おれ。変わらないから……そう、いつまでも……」  武はそう言うと死を覚悟した。    救命具を付けた湯築は、麻生を引き離し、なんとか龍の大口から逃げおおせた。二人が向かったのは粉々になった屋上の入り口である。 今度は武に五体の龍が向かった。  それぞれ空を切るような早さの龍の牙。だが、高取は武に救命具を付けると共に、すぐさま海へと転落した。
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