ドラセナ家の憂鬱

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「ねぇノイン。」 「何です?」 朝食を済ませ、自室に戻ってきたティオは大きなソファーに寝そべりながら本を読んでいた。 その横でノインは散らかったベッドを片付けている。 「明日はドヴァー兄様の婚約パーティーがあるのよね?」 「はい。」 「人がたくさん来るの?」 「勿論です。」 「街の人たちも?」 「いいえ、許された皇族貴族のみをご招待されているようですが…」 「えー…つまんなーい。」 仰向けで本を顔の上に乗せながら不貞腐れる。 「貴族の人たち、私きらーい。」 「……そのような事、思っていても口に出してはいけません。」 「ノインも嫌いでしょ?」 「………ティオ様のような貴族は好きです。」「私みたいな貴族?変わってるわねー。」 「何とでも仰ってください。」 「へーんなのー!」 ティオはお腹を抱えケラケラと笑う。 のも束の間、呼吸を整えると哀しそうに微笑んだ。 「お姉様たちがね、いつも言うんだ。"アンタは貴族じゃない。ドブの底に捨てられていた捨て子なのよ。"って。だから私貴族じゃないの。」 「…そんな事は断じてありません、ティオ様。その証拠にティオ様はご立派で美しい髪色、それに黄金指輪はティオ様の意思に応え、光り輝いているでしょう?」 ティオは左手中指に光る黄金の指輪をじっと見つめた。 ティオの透き通り光沢を放つ金色の髪と呼応するように指輪は妖しい光を保っている。 「生まれ持った貴族のその金色の髪は色が透き通っているほど純血であると言われています。ドラセナ家でティオ様ほど綺麗な髪色をしているものはおりませんよ。」 「…そうかしら…、大人になるにつれ色が変わるんじゃないの?」 「そんなことは有り得ません。」 「ふーん。」 「ですから、お姉様方は恐れているのでしょう。ティオ様が指輪の力を解放する日が来るのを…。我家で絶対的な権力を持っていると予測されるのはティオ様なのですから…。」 ノインに視線を移していたティオは、再び黄金指輪に目を向けた。 「"貴族の血が流れる者のみが手にすることの出来る黄金指輪は人類を幸にも不幸にも導くと言われてる"…って父様が言ってたっけな。」 独りでに呟くティオの隣に座り、ノインは儚げに笑った。 「今は皆、不幸の道を辿ろうとしています。私はティオ様にはそうなって欲しくはないのです。」 「……大丈夫だよ。」 ティオは優しく微笑んだ。 「……みんなどうして奴隷さんなんて欲しがるのかな…私だったらおともだちが欲しいのになー。」 「…お友だち…ですか?」 「うん。」 ティオは伏し目がちに笑った。 「お友だちと一緒にお勉強したり、お絵描きしたり、…一緒に色んなお話がしたいなー。」 「それなら私めが…」 「うん、ノインがいる時は一緒にするよ!でもね…ノインがいない時、私いつも一人ぼっちなの。だからね、お姉様たちの奴隷さんと仲良くなりたくて声をかけるんだけど…みんなすっごく怯えた顔をするの。 その顔を見る度にね、心がギュッて握られたみたいに苦しくなるの…。」 ティオの痛々しい笑顔にノインは視線を逸らした。 「だから私、あの子たちがそんな顔しなくてもいいようなお家を作りたい。みんなで一緒に遊べるようなお家。」 「ご立派なお考えです。」 「ふふっ、でしょ?」 ティオは嬉しそうに笑い、起き上がった。 「私のこと手伝ってね、ノイン。」 「承知致しております。」
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