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 人間である以上、食べなければならない。これは、生命維持に関わる大問題である。  諦め気味に辺りを見回してみたが、もちろんのこと食べ物なんてあるはずが無かった。  可能性があるなら、ポケットの中くらいだろうか。自分でも忘れていた何かに期待し、ズボンの小さなポケットに手を突っ込んでみる。  すると、右手の指先に硬い物が当たった。ごちゃごちゃ入り乱れたそれを、纏めて取り出してみる。  ──期待の一品、それは鉛筆と消しゴムだった。愛用の白黒文具である。  現実を思わせる物品に、自分はやっぱり漫画家なんだなぁと苦笑してしまった。    だが、これでは腹の足しにならない。もしかしたら美味しいのかもしれないが、試食する勇気はなかった。  しかし、これがあれば暇潰しは出来る。  普段と同じ行動にはなってしまうが、俺にはそれ以外の行動が思いつかなかった。  ――紙と鉛筆が存在するならば、描くしかない。  職業病か、またも他の案は出なかった。  どこに描くかとの問題が生じたが、白い空間を見たら自然と解決策が浮かんできた。  今日は、何の縛りもなく絵が描ける。  久しぶりの落書きでも楽しもうと、鉛筆を握った。
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