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 空腹繋がりで、第一に食べ物を描こうと決めた。帰ったら食べたいものを想像し、鉛筆を空に掲げる。  頭には、最初にラーメンが浮かんできた。  イメージ通りに筆を動かす。すると、いとも簡単に線を引くことが出来た。  驚くことに、空間自体がキャンバスになっているらしい。絵描きの為に用意されたかのような場所に、またも苦笑ってしまった。  ──描いた記憶のない品ではあったが、我ながら上手く描くことが出来た。仮にも、漫画家をやっているだけあるだろう。  目の前に、平面で黒白なラーメンの絵が浮かんでいる。これが食べられたなら良かったのに、と腹を擦りながら考えた。  と、その時。 「──え? マジか」  絵であったはずのラーメンが、突如立体化した。描いたサイズより、少しだけ大きくなっている。  絵としての雰囲気を維持したまま、しかも白黒のままであるが、本物のラーメンの香りまでした。  もしかして、食べられるのでないだろうか。そう考えてしまうくらいにはリアルだった。  検証すべく、学習を生かして箸を作ってみる。長四角の線は思惑通り立体になり、持つことも簡単に出来た。  食べられるのか否か──疑りながら箸を突っ込んでみると、見事に麺部分がほぐれた。掴んで口に放り込むと、普通にラーメンの味がした。食感も現物そのものだ。  それは、凄まじく奇妙な感覚だった。
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