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「これはオレからの新居移転のお祝いだから、気にしないで。知り合いから分けてもらったものばかりだし」
「知り合いなんているんだ……」
色々と言いたいことはあるが、その時、ぐう、と腹の虫が鳴ってしまった。
これではどれだけ息巻いても恰好が付かない。
月は、観念したように、一呼吸の後、箸を取った。
「……いただきます」
「はい、いただきます」
手を合わせる月に、にっこりと笑い、乾太郎も手を合わせた。
これを食べたら最後、この貧乏神にくっつかれての生活が始まるのではないかと警戒もしたが、空腹が勝った。
まずは味噌汁に手を伸ばして一口啜る……。
「ずず……。……ん! おいしい!」
「良かった。料理は自信あるんだオレ」
「へえ、私料理なんてやったことないわ」
「そっか、独り暮らし始めたばかりだもんなぁ」
「そうそう」
穏やかな団らんの風景が流れる――。
「……いやいや、なんでこんなすぐに打ち解けてるの、私」
「一緒にご飯を食べるということは、仲良くなりましょうという挨拶だからだよ」
「私は、貧乏と仲良くしたくない!」
「……ご、ごめんな。でも、ほら、オレ色々と役に立つから。ご飯作るし」
「……なんで殊勝なこと言うんだよ、この貧乏神ィ……」
毒気も抜かれて、美味しい味噌汁にほだされてしまう。
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