あうん の こきゅう

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「い、いえ、違うんです。今日は阿形さんと吽形さんに訊ねたいことがあって」 「「なに?」」  双子の青年は、機械音声かと思うほどに同じ音色で、同時に疑問の声を漏らした。 「神社の、狛犬……阿吽の狛犬、あれがあなたたちなんですよね?」 「そうだ。世界各地の神社には大抵ある。口が開いているのが阿形で、閉じているのが私だ」 「開けぬぞ」  吽形が悪戯に、ニヤリとしたので、阿形はそう言って口を結んだ。なんだか阿形の方は語ってくれそうにないので、吽形に顔を向けて、月は訊ねてみた。 「おみくじ……、私のおみくじが消えたんです。誰かが解いて持っていったはずなんですけど、現場を見てませんか?」  ほとんど、思い付きだった。あの神社の狛犬が阿吽ならば、この橋の阿形、吽形と同一だ。ひょっとすると、狛犬として犯人を見ていたかもしれないと考えた。手がかりがまるでなかったから、藁にもすがる思いだった。 「おみくじを解いて持っていった者だと?」 「何でもいいんです、手がかりがあれば……」 「そうは言っても、それこそこちらの台詞だな。参拝客はそれなりに居る。もう少し特徴が分かればこちらも思い出せるかもしれぬ」  手がかり――犯人の特徴……。     
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