モラトリアム

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「順序が違うでしょ」 「え……?」 「その人を好きになるから、御縁を大事にしたいと思うんだろう。御縁をくれるから、人を好いているわけじゃない」 「……でも……だって、私……」  乾太郎の言うことは正論で、当然の理である。  相手を好きになるからこそ、その人と繋がりたくて仲良くしていこうと考えるものだ。  人がお金を稼ぐときの感覚に合わせて考えてしまった月は、少しだけ自分を恥じた。 「……ゴメン、なんか私……最近、打算的になってるのかも」  それは、自分の財産が減っていくことを考えてしまうと、どうしても考えざるを得ないことで――、自分の利益を上げるために、相手との関係を計ってしまうようなところが生まれてきていた。 「貧乏神の能力の影響だよ。貧乏神の力でお金がなくなれば、人は余裕がなくなる。広い視野も狭まって、損か得かで判断しがちになるし、他の人もそうじゃないかと疑心暗鬼になっていく」 「……やだな、それ」  これまでお金をせびって来た人々の姿をちらりと思い出してしまう。  本当は、人との関係性に、損得勘定なんてないものなのに、いつしか月の内側に、稼がなくちゃという気持ちが渦巻いていた。     
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