奇妙な同居生活

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 冗談じゃない。これから花の女子大生になるというのに、金は色々と必要になる。人の生活は金が全てを取り仕切る。それを奪われてしまうということは、命を奪われるも同然だ。生きる手立てを奪われていくのだから。 「……どうにかなんないの?」 「キララちゃんが、この部屋から退去すればいいだけ、かな」 「そ……そう言われても、契約したばっかりだし、こんなに良い部屋を手放すなんて」 「オレが居ても?」  きゅ、と蛇口が止められる音がした。手拭きタオルで水滴を拭い取りながら、乾太郎は月に訊ねた。 「……いまのとこ、あんたから嫌な事されてないから、別に嫌う理由、ない」  ふい、と乾太郎から目を背けてぶっきらぼうに言った。なんだか、乾太郎がとても寂しそうな顔をしていたように見えたから、厳しく当たり辛かったのだ。 「ありがとう、キララちゃん」 「だっ、だから、キララちゃんってやめてよ!」 「でも、君の苗字はキララだろー? オ、オレ、初対面の女の子を下の名前で呼ぶなんて、できないし」 「っ……! そ、そんなこと、恥ずかしそうに言うなっ!」 「あ、オレのことは好きに呼んでくれていいから」  調子が狂う。まさにそんな相手だった。  てっきり、いわくつきの物件に出てくる望まぬ住人というのは、現世に恨みをもった悪霊とかだと思ったのだ。     
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