モラトリアム

7/11
前へ
/314ページ
次へ
 ふと頭に浮かんだのは、以前助けたネコのことだった。  そろそろ獣医からその後の経過連絡が来てもいいだろう。一週間ほどで退院もできるという。  最初はきちんと歩けないだろうなと、哀しい気持ちが浮かんでしまう。  どうにかして、元通りに元気に歩けるようになればいいのだが――。  そう思うと、月は自分の足を見つめた。  幼い頃、それこそ、小学生の時に、月は交通事故にあっていた。一命はとりとめたが、酷い怪我で一か月はまともに歩けなかったことを思い出したのだ。  あのネコも、同じように立ち直れたらいいなと、自分の足を撫でながら、願った。  今日は、色々と昔のことを思い出す。  幼い頃は、物静かで大人しい子だったと親から言われたが、成長するにつれ、元気はつらつ……というか、お転婆とでもいうか、ハキハキした性格に育っていったらしい。  自分では、もう幼い頃の記憶なんてほとんどない。大抵の人はみんなそうだと言う。幼稚園児だったころの記憶なんて不思議なことに全く思い出せないものだ。  自我というものがはっきりと生まれてきてから、人は記憶を保持するようになるものなのかもしれない。 「かんたろとのこの生活も、いつか思い出になって笑えると良いな」     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加