モラトリアム

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「パソコンって、今人間にとって必需品なんだろー? どうにかしないといけないじゃないの?」  乾太郎が朝ごはんを用意しながら、のんびりとした口調で言う。今日の朝食はフレンチトーストだった。甘い香りが食欲をそそるが、月はパソコンの故障のせいで横腹に嫌な痛みすら感じるのである。 「……パソコンは必須だ……。大学のレポートもそうだし、情報処理もある……。修理するべきか買いなおすべきか……」 「買いなおしをお勧めするよ」 「なんで? かんたろ、PCに強いの?」 「いいや、恐らくだけど、貧乏神の能力で、修理に出してもまたすぐに壊れて、出費がかさむんじゃないかと」  げんなりする理由だった。 「つまり、新品を買って、貧乏神の力で壊れたとしても保障で賄えるからおすすめするってことね」 「その通り」 「ぐうっ、新品だって値段バカにならないのに……最低でも五~六万レベル……また出費が……ああ、貧乏税……」  青い画面を映し出すノートパソコンをパタンと畳み、がっくりと肩を落とす月。  乾太郎と共に暮らす限り仕方ないとはいえ、出費が発生するイベントの目白押しである。  これなら、もう普通に同じマンションの別の部屋を借りていた方が、出費が安く済むレベルだ。 「出たくなった?」 「出ない」     
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