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月はてっきり、そういうのは似合わないと思うとか言われると思った。しかし、乾太郎は興味深そうに月を見つめていた。なんだか、そんなことを言われて、柄にもなく、嬉しさがこみ上げたのだ。
乾太郎が、自分に興味を示してくれているのが、こそばゆくて、表情に浮かびそうになって誤魔化した。
「か、かんたろの服装も、いい感じだと思う」
「そうかい? 良かった。落ち着いた雰囲気を出せていたらいいなぁと思って服を選んでいるからね」
乾太郎の見た目年齢は、二十代前半という印象だ。
月の大学に通う男子学生と比べても、乾太郎の立ち振る舞いは、どこか優雅さがある。いつも余裕がある雰囲気を身に纏っていて、口調も自然に空気に溶け込むみたいな聞きやすいテンポだ。
そんな雑談をしながら、あやかしの商店街を歩いて回ると、『ブティック一反木綿』と表札が下がっていた。ここがあやかしの服飾店だろう。衾は大きく開かれていて、客間を改造した店内には、鏡とマネキン、そして多くの服がハンガーにかけられて展示されている。
「一反木綿ってなんだっけ」
「妖怪だよ。ゲゲゲのやつ、見たことない? ひらひら飛ぶ妖怪」
どこかの方言で喋る、空飛ぶ白い布切れのような妖怪を思い出した。あれが一反木綿だったかと納得して、店内を観察すると、中に店主らしき人物が一人座っている。
「いらっしゃいませ」
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