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「構わないよ。好きなものを選んでくれていいから。別に一着じゃなくても、気に入ったら選んでいいからね」
「う、うん……ありがとね、かんたろ」
……デートじゃないか、と思ったが、口にはしなかった。
完全に、彼女に服を買ってあげるカレシの状態である乾太郎は、店の奥には進まず、入り口の傍で静かに佇んでいた。婦人服の店だから、入るのを遠慮しているのかもしれない。
いくつか気に入った洋服を選び、山岸に訊ねた。
「試着ってできますか?」
「はい。こちらにどうぞ」
上品な仕草で案内する山岸についていくと小さな個室があり、そこには姿見が置いてある。
着ている服装を脱いで、大正モダンな洋服にそでを通し、スカートを履くと、意外にも違和感がない。
「悪くないかも」
これにクローシェ帽でも被れば、まるでタイムスリップしたみたいな感じにもなるかもしれない。
尤も、クローシェ帽をかぶるには、今の月の髪の長さでは似合いそうもない。あれは髪を短くしておかないと様にならないと思った。
月は、肩のあたりまである髪を、切ってみるのもいいかもな、と少しだけ考えたが、やっぱり変に自分の姿を変えたくもないしで、結局そのままを貫くことにした。
「かんたろー」
「決まったかい?」
「どうかな。あやかし的に」
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